茨城編・共生する山嶺

唯一無二の停泊地で見えた景色。完璧すぎる楽園が旅人に問いかけるもの

那珂川のせせらぎと、消えゆく野営の記憶

ナビの目的地を「道の駅みわ」にセットし、国道50号を左折して北へと進路を取る。
車輪がアスファルトを噛む音が変わり、早速の登り坂が始まった。繰り返されるアップダウン。フロントガラスに映る景色は、いつしか完全な山間部へと姿を変えていた。

ふと、3週間前に走り抜けた紀伊半島の記憶が脳裏をかすめる。
あの旅からもう3週間か——。時の速さに驚くと同時に、今見ている景色との決定的な違いに思考が巡る。

紀伊の山々は、人を寄せ付けぬ険しさと、恐怖すら覚えるほどの荒々しさに満ちていた。それは人間が入ることを許さない「聖域」の姿だった。

対して、今、目の前にある茨城の山々はどこか優しい。
切り立った崖の先にも、斜面に張り付くようにして営まれる人々の生活の匂いがある。自然が人間を拒絶するのではなく、互いに折り合いをつけながら共生している。その「生活の息吹」が、この地の山間部を柔らかなものに見せているのだ。山と一口に言っても、これほどまでに表情が違うのかと、愛車のステアリングを握る手に実感がこもる。

茨城の深部へと分け入るドライブ。
「みわ」までは1時間ほどと踏んでいたが、40分ほど走ったところで「道の駅かつら」の看板が目に飛び込んできた。予定ではその後に訪れるつもりだったが、旅の醍醐味は寄り道にある。俺は吸い寄せられるように駐車場へと愛車を滑り込ませた。

これまで立ち寄った「常総」「筑西」「かさま」といった巨大な施設に比べれば、ここは実にこじんまりとしている。だが、ログハウス風の素朴な佇まいは、任務明けの昂ぶった神経を不思議とリラックスさせてくれた。

店内に入ると、その外観からは想像もつかないほどの人で溢れ、活気に満ちている。レジで記念切符を求めたが、残念ながら取り扱いはなかった。代わりに手にしたのは「道の駅カード」。これもまた、この旅の確かな足跡だ。

店を後にしようとしたその時、視界の端に水のきらめきを捉えた。
川だ。
誘われるように車を川辺へと進める。岸辺にほど近い駐車場に車を止め、水際まで歩み寄る。

流れていたのは那珂川だった。
水辺のある景色は、いつ、どこで見ても心を穏やかにしてくれる。かつてはこの川縁でキャンプが楽しめたという。今は駐車場の拡大により禁止となってしまったようだが、かつてここで焚き火を囲んだ旅人たちの情景が、今の静かな川面に重なって見えた気がした。

駐車場が川のすぐ傍にある。それだけで、ここは車中泊の旅人にとって極上の停泊地となる。
たとえ焚き火を囲むキャンプができなくなったとしても、節度を守って一夜を明かすなら、那珂川のせせらぎを子守唄に過ごす贅沢な時間は、何物にも代えがたい「静かな旅」の醍醐味だ。

左手に目を向ければ、優美な橋が架かり、水面のきらめきと相まって申し分のない景色を描き出している。

しかし、ふと駐車場の反対側に目をやると、そこには大規模な工事の喧騒があった。看板には「道の駅 建設中」の文字。

どうやら「道の駅かつら」は、近々大きな変貌を遂げるらしい。
土が剥き出しになった広大な敷地を見る限り、ここもいずれは筑西やかさまのような、現代的で立派な施設へと生まれ変わるのだろう。利便性が増すのは喜ばしいことだが、今の俺を癒やしてくれたあのログハウス風のショップの温もりだけは、どうか残っていてほしい——。そう願わずにはいられない、旅人としての身勝手な感傷が胸をかすめた。

未練を断ち切るように再び愛車に乗り込み、本命の「道の駅みわ」を目指して北上を再開する。
走るにつれ、道の勾配はさらに厳しさを増していく。

茨城編・空転の果てのオアシス

さすがにこの辺りまで来ると、茨城の「平野」の面影は完全に消え去り、景色は濃密な山岳の色に染まっていた。

だが、駐車場に滑り込ませた愛車の周囲には、数えるほどしか車がいない。嫌な予感が胸をよぎる。手元の端末で確認すると、画面には「月曜定休」の四文字が無慈悲に浮かんでいた。

自宅から茨城の道の駅を巡る中で、最も遠い場所に位置するこの地が定休日。
「ちょっとした皮肉」というには、あまりにも出来過ぎた展開だ。手放しでは終わらせてくれない、茨城の山々からの「難しい宿題」を突きつけられた気分だった。

苦笑いを噛み締めながらも、旅を止めるわけにはいかない。俺は気を取り直し、次の目的地へとナビをセットした。

茨城編・規格外の停泊地

目指すは「道の駅 常陸大宮」。
愛車を反転させ、再び鷲子の交差点を右折。立花トンネルを抜けて国道293号をひたすら戻る。往路で苦労した坂道は、復路では軽快な下り坂へと姿を変えていた。

上小瀬のT字路を左折し、県道161号へ。進むにつれ、あれほど濃密だった山の気配が薄れ、視界が劇的に開けていく。

小貫入口の交差点を右折し、進路を南へ。
左手に広がる平野と、右手の遠くに控える山嶺。そのコントラストを楽しみながら1kmほど走ると、左側に「道の駅 常陸大宮」が見えてきた。

駐車場へ車を滑らせると、そこには平日とは思えないほどの車列。先ほどのみわの静寂が嘘のような活気だ。

施設は一目見てわかるほど巨大で、モダンな佇まいを見せている。
まずは記念切符を無事にゲットし、そのまま吸い寄せられるように川縁へと向かった。

先ほどの「道の駅かつら」の素朴さも捨てがたかったが、ここはまた別格の美しさだ。隅々まで整備が行き届き、清流と調和した空間。川原を眺めながら、私はこの旅の「もう一つの山場」に立ち会っていることを確信した。

川原を見下ろしながら、俺はこの「道の駅 常陸大宮」が持つ、常識破りのポテンシャルに圧倒されていた。

広大な物産売り場に、活気あふれるフードコートとレストラン。さらには事前予約で楽しめるバーベキュー場や、子供たちが歓声を上げる遊具エリアまで備わっている。ここには、旅人が求める「豊かさ」のすべてが揃っていた。

だが、何より俺の度肝を抜いたのは、ヘリコプターによる遊覧飛行まで行われているという事実だ。

空を舞うヘリの爆音と、足元を流れる清流のせせらぎ。
こんな道の駅、他にあるだろうか。これまで数多の地を走り抜けてきた私でさえ、ここまでの規模とサービスを兼ね備えた施設にはお目にかかったことがない。文字通り、唯一無二の存在だ。

もちろん、最新の設備は隅々まで磨き上げられ、トイレに至るまで清潔そのもの。
ここで断言しておこう。茨城の道の駅を巡る旅において、車中泊の第一候補に挙げるべきは、間違いなくこの「常陸大宮」であると。

川縁の柔らかな風に吹かれ、任務明けの火照った頭をクールダウンさせる。
「みわ」での空振りを帳消しにして余りある、極上の気分転換となった。私は心地よい充足感を胸に、次なる目的地へと愛車を走らせた。

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