会えなかった夏、約束した秋

夏、会えなかったNOHGA

思いがけない景色で再会した30年来の知人の女性と約2カ月ぶりにランチをした。それは、もちろんビストロノNOHGA上野。彼女に会うのはもちろん楽しみだったが、実はこの日はもう一つ楽しみにしていたことがあった。
前回、とても印象に残った女性スタッフさんに、もう一度会えるかもしれないという小さな期待だった。でも、その夏は会えなかった。
席へ案内してくれたスタッフさんに、「今日は○○さんはいらっしゃいますか?」と聞いてみた。すると返ってきたのは、「今日は休みなんです。」という答えだった。
その女性スタッフさんにサプライズのつもりで来店したつもりだったが、「感動の再会」とはならなかった。だが、仕方がない。気持ちを切り替えて食事を楽しむことにした。
お互いが持ち帰ったもの、その後・・・

前回、俺は彼女から、自分では気づかなかった価値を教えてもらった。そして彼女もまた、自分では気づかなかった視点を持ち帰ってくれた。
お互いにそのアドバイスを実際に試してみると、二人とも思いがけない成果を得ることができた。
彼女は似顔絵をとても喜んでもらえ、早速「次回もお願いします」と新しい仕事につながったという。
一方の俺も、ニッチすぎるかもしれないと思いながら公開したホームページが、初日から多くの方に読まれ、公開から3週間でフロントページには約400PVものアクセスをいただいた。
こうして再会した俺たちは、お互いに「その後どうなった?」という報告ができた。
彼女は、自分の挑戦が実を結び、忙しく過ごしていることを嬉しそうに話してくれた。俺もその話を聞いて、自分のことのように嬉しかった。
そして、俺のホームページのその後を話すと、彼女もまた、自分のことのように喜んでくれた。
人は誰でも、会わない時間の中で、それぞれの景色を歩いている。

2カ月ぶりの再会では、お互いの近況をゆっくり話した。楽しかった出来事だけではなく、それぞれが抱えてきた時間の話もあった。
以前のようにはできなくなったこともあるという。この数年で、いくつもの出来事を乗り越えてきたことを知った。
それでも笑顔で話す姿は、以前と何も変わらなかった。
改めて感じたのは、会わない時間にも、人はそれぞれの場所で少しずつ歩き続けているということだった。
もちろん、それは俺も同じだ。
彼女と会わなかった30年の間に、俺もまた、いろいろな経験を積み重ねてきた。
だからこそ、穏やかに近況を語る彼女の姿に、俺は静かな強さを感じた。
次のホームページが読みたい

今日は、前回とは違い、別のコースでNOHGAのランチを楽しんだ。メインが一品多く出るコースを頼んだ。前にも書いたが、ここはただ料理を楽しむ場所ではない。料理を作る人も、サービスをする人も、それぞれが生み出した作品を五感で味わってほしい。そんな想いが、この場所全体から静かに伝わってくる。
そういう場所で楽しむ食事は、また別格なものだ。今日もとても満足した。当然会話も弾む。いろんな話をした。よくもそんなに話すことがあるなというくらい話した(苦笑)。
そんな中で、彼女からホームページ作りについていろいろと質問をされた。俺はその一つ一つに誠実に向き合って答えた。昔からホームページ作りに挑戦しては何度も挫折したこと。AIの出現で、俺でも半年で5サイト公開出来たこと。5サイト作ったことによっていろんなことが見えてきたこと。
そして、
- サイトは作者だけで完成するものではないと理解したこと。
- 70~80%の出来で公開する。
- あとは読者がどんな反応を示すのかを見ながら、必要なものを少しずつ加えていく。
- そうして少しずつサイトを研ぎ澄ませ、読者にとって価値ある場所へ近づけていく。
それが俺の「ホームページ作り」と彼女に話した。
それを聞いた彼女は、「早く次のホームページが見たい。絶対作ってね」と笑いながら言った。その言葉が、次の一歩を踏み出す力になった。
秋へ続くNOHGAの時間

正午前に来たNOHGAも気が付けば時計は14時を回っていた。話は尽きなかった。楽しい時間は気付かぬうちに思いもよらない時間まで俺たちを運ぶ。近くいたスタッフの方に会計をお願いした。
彼女が「今度は秋メニューに来ようね」といった。俺もそのつもりだった。そして、ここで期待していた再会が果たせなかったからでもある。「ああ、また来よう」俺もそう返した。
少しして、男性スタッフの方がコードレス決済機を持ってきて暗証番号の入力を頼まれた。ササっと打ち込む。会計が済み、男性スタッフが「またお越しください」と笑顔で声をかけてきた。その時だった。彼女が男性スタッフに向かって静かにこう言った。
「今日は、〇〇さんに会いに来たのに残念でした」
それを聞いた男性スタッフは「えっ!〇〇の事を知っているんですか?」少し驚いた顔をしていた。そのいきさつを彼女が男性スタッフに話した。すると、男性スタッフの表情がふっとほころんだ。そしてこう続けた。
「それは、〇〇もすごく喜びます。必ず伝えておきます」そして、その男性スタッフは女性スタッフさんの先輩スタッフで、その女性スタッフさんの事を少し話してくれた。そこで始めて分かったのだが、
- 彼女が真面目なこと
- 自分に厳しいこと
- 先輩に相談することがあること
そんな話を聞かせてくれた。そこで初めて前回感じた印象と今回聞いた話が自然につながった。
その時俺はとっさに口を開いた。
「この間、名刺交換をさせてもらった者だと言えば分かりますから」
男性スタッフはうなずきながら、
「必ず伝えます」ともう一度力強言ってくれた。
店を出てからお互いに顔を見合わせた。
「やっぱりそうだったんだね」
お互いに同じことを感じていた。
会えなかった夏だった。
それでも、その日持ち帰った景色は、決して少なくなかった。
NOHGAの余韻

店を出ても、まだ今日という時間は終わっていなかった。
彼女が食事代と言って財布を取り出そうとした。もともと受け取るつもりが無かった俺は、
「なら、お茶でも飲もうよ。外でお金のやり取りもなんだし。」
といって彼女と駅構内のカフェバーに入った。
そこでも話は尽きなかった。さっきまであれだけ話していたのに、話題は次から次へと出てくる。気づけば時計はもう16時を指していた。そろそろ帰ろうとなり、「ここは私が持つよ」と彼女が言ってきた。せっかくの好意なので甘えることにした。
これで金のやり取りもやらずに済む。そう思ったのだが、彼女が突然、
「あっ!そうだ食事代!忘れてた!すっかり話に夢中になっちゃった」
と彼女が笑いながら言う。
俺は最初から受け取る気はなかった。どうやって自然に断ろうか考えたその時だった。ふと、あることを思い出した。そういえば彼女は7月生まれだった。日にちまでは覚えていなかったが、確か下旬だったはずだ。そこで俺は、
「いいよ、誕生日だから。」
そう言った。その瞬間だった。一瞬驚いた表情を見せた彼女の顔が、すぐにふわっとほころんだ。
「何んで知ってるんですか?!」
本当にうれしそうな顔だった。
「確かそうだったよなって、さっき思い出したんだ。正直正確な日にちまでは覚えてなかったけど、確か下旬だった気がして。」そう答えると、
「はい、25日だったんです!えーっ!うれしい!親ですら忘れているのに!」
と、笑顔で答えてくれた。
「本当なら、何かプレゼントでも渡すべきなんだろうけど、ごめんね。」
「ええっ!それだけでも十分うれしい!」
彼女は本当にうれしそうだった。そして、
「今度は秋メニュー食べに来よう!」
そう約束を交わし、9月の終わりか10月の頭に会うことにした。
別れ際、彼女は何度も振り返りながら、笑顔で手を振ってくれた。
俺も手を振り返した。
暑い夏の日、NOHGAを出ても、その日の余韻はしばらく消えることがなかった。
約束した秋が、少し楽しみになった。
【 The Silent Journey:旅の軌跡 】
[ ← 前のエピソード ] | [ 旅の記録一覧 ] | [ 次のエピソード → ]

コメント